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偶然の科学

"複雑系社会学の神髄を説き尽くした話題の書、待望の日本語版。" だそうな。著者は、コロンビア大学社会学部教授、ヤフー・リサーチ主任という肩書きを持つダンカン・ワッツ氏。"こんなことが書いてある" と簡単に説明できないのは申し訳ないが、読み応えのあるおもしろい内容だった。

偶発的に起こったできごとについて、科学的に考察した本書は話題が多岐にわたっているのだが、実に興味深い内容となっている。

  • モナ・リザが世界で最も有名であるのはなぜだろうか?
  • アップルが復活したのは、本当にジョブズが偉大だったからなんだろうか?
  • VHS がベーターに勝利したのは、VHS 陣営の戦略が優れていたからなのだろうか?

などなど。

私たちは、結果からみて原因を探ろうとする。その原因にあやかって、次のダ・ヴィンチやジョブズを目指したり、その逆に、できない理由として利用したりする。だがしかし…。過去の時点に遡って未来を予測することができただろうか? モナ・リザを書き始めた頃、これほど有名になることが分かっていたのか? ジョブズが戻ってきた頃、アップルが世界一の企業になることを予見できたのか? ベーターを開発した頃、敗れることは確定していたのだろうか? …否。世の中はそんなに単純ではない。人間の記憶は、目立ったできごと、つじつまの合うエピソード、魅力的な物語を記憶するようにできているため、見落としていることが少なくない。私たちが理解している歴史 (とその原因) は、あくまでも結果から見て、過去の物語を紡ぎ上げた結果に過ぎない。未来は、コントロールできない多数の外部の影響による不確実性の上に成り立っているのだから。

"偶然" が本当に偶然なのか? それとも本当は原因があるのか? そこのところを科学した本書の原題は "Everything is Obvious* (すべては自明である)" となっている。「おや? 本書の内容と違うが、何かのレトリックか…?」と思いきや、副題に "*Once You Know the Answer (その時、答えを知っていたならば)"とあった。なるほどね。そしてこうも書いてある。

"How common Sense Fails Us (常識が我々を誤らせる方法)"

  • "偶然の科学" [単行本]
  • "偶然の科学" [文庫]