
アメリカン・スナイパー
イラク戦争に 4 度従軍したクリス・カイルの自伝の映画化。史上最高の狙撃手と呼ばれたクリス・カイルの英雄伝という側面と、 PTSD に苛まれる家庭人という側面を中心に描いた名作。だが本当に描かれているものは…。
イラク戦争を舞台にした伝説のスナイパーの映画で、一見すると、ブッシュ政権の対テロ政策を賛美する映画のように見える。正義に燃え、忠誠を尽くし、強靭で、紳士的で、仲間を思う理想的なアメリカ軍人。一方で、家庭でのクリス・カイルを描いたシーンも多く、 PTSD 問題にフォーカスしている映画のようにも見える。
だけど、私がもっとも気になったのは、クリス・カイルが構えるライフルに付いている高性能スコープに映る標的の姿。それはアルカーイダ系武装兵ばかりでなく、時に少年であり、母親だった。武器を持った自爆テロとは言え…。
オープニングで「狼から羊を守る牧羊犬になれ。」と父親に教育された少年クリス・カイル。その正義感を貫いて、シールズに入隊し、仲間を守り、彼が野蛮人と呼ぶ敵を撃つのだが…。
スコープに映るその子どもは、本当に狼なのか? 年端もいかない少年がアメリカの何を知っているというのか?
数多くの米兵の危機を救ったであろうクリス・カイルは、間違いなく英雄だろう。ただ、倒すべき本当の狼は、知識も判断力も未熟な少年に武器を持たせてしまうテロや戦争であり、戦争でしか解決できない未熟な社会なのではないだろうか?
狙撃の腕をいくら磨いても倒せない本当の狼。それを見せてくれる貴重な映画なのだと私は思った。
必見。