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博士の愛した数式

数字を数式を、これほど情緒豊かに綴った本を、私は他に知らない。

交通事故で記憶力を失った元数学博士。彼の記憶は 80 分しか維持できない。家政婦として雇われた "" の一人称視点で描かれた本作品は、博士に "ルート" "と命名された彼女の息子と共に、積み重ねできない 80 分を繰り返しつつも、淡く儚く純粋な愛情の尊さを紡ぎ出す。

物語は、誰しもが通る、ごくありふれた日常の生活にすぎない。掃除をしたり料理をしたり、歯医者に行ったり、子どもに宿題を教えたり、野球場へ足を運んだり…。なのに、小川洋子女史の筆は、その日常を淡く美しく愛しい色に描き出す。なんでもないありふれた毎日が、どれほど尊いものなのかを読者の心の中に築き上げる。

博士が少年に向ける無垢な愛情に、思わず目頭が熱くなる。彼女の筆は、私の心に一つの小さな、けれどもとても大切な何かを残してくれた。美しきオイラーの等式とともに。

  • 博士の愛した数式 [単行本]
  • 博士の愛した数式 [文庫]
  • 博士の愛した数式 [Kindle版]